Webサイトの制作を円滑に進める上で重要な役割をもつ、要件定義。
Webサイトやブログの制作やリニューアルの作業が初めての方や慣れていない方は、要件定義の意味や重要性がわからない、関係者間での要件定義が決められない、などといった疑問が出てくることもあるでしょう。
今回は、Webサイト制作・リニューアルに向けて、要件定義が必要な理由と流れ、要件定義書に記載すべき項目について解説します。
要件定義とは
要件定義は、大まかにいうとどんなページが必要か、どんな機能が必要かという骨組みを決めていきます。
Webサイトの制作やリニューアルに向けて、プロジェクトを円滑に進める上で重要な役割を担っています。
例えば、Webサイトをリニューアルする場合には、何のためにリニューアルするのか、誰にどうなってほしくて、何をどのように見せるサイトにしたいのか、いつ頃までにリリースしたいのかなどを決めます。
これらを取りまとめることで Web担当部署と発注側の社内関連部署、制作会社などの外注側との認識を一致させる目的があります。
そのため、この段階で決まったことを、後から変更が生じないようにしっかりまとめておきます。
また、要件を決めてみたら、当初の見積もりより費用が増えてしまったということもあるため、注意が必要です。
要件定義を行う手順
要件定義を行う手順としては、主に4段階あります。
1.ヒアリング・課題整理
Webサイト制作における主な課題には、運用体制といった内部担当と、市場や競合他社の状況といった外部担当があります。
Web制作時の要件定義では、まず、現在におけるWebサイトの課題を把握する必要があります。
そのために必要な作業は、社内の責任者や各関係部署、さらには可能であれば買い手となったユーザーへのヒアリング、Webサイトのデータ分析、競合他社の状況との比較などがあります。
そこから課題となる点を拾い出し、整理していくわけです。
2.仮説立案
仮説立案は、課題整理の仕上げとして、課題から仮説を立ててリニューアルの方向性を検討します。
Webサイトを訪れるユーザーのペルソナとWebサイトでの導線を想定し、コンバージョン(Webサイトの目的)の達成につなげるシナリオを検討する作業が必要です。
例えば、サービス紹介でどれが最適なプランなのかわかりにくいという課題に対して、具体的なメリットを示せていないのではないか、使用事例が少ないからではないか、という仮説を立てます。
こうした仮説をもとに、メリットを率直に伝えるデザインや表現に変更する、プラン選びの参考になる事例も設定するといった、具体的なリニューアルの方向性を見出しやすくなります。
他にも、ユーザー導線の想定を元に例えた場合、お問い合わせや申し込み、注文・購入、会員登録などへの導線を改善したり、UI/UXを改善したりするなども必要です。
そうすることで、Webサイトを制作・リニューアルする際の方向性や、実施すべき内容の仮説を立てます。
3.合意形成を図る
仮説立案ができたら、現状の課題やサイト制作・リニューアルの目的を関係者間で共有やすり合わせを行い、合意形成を図ります。
Webサイトのコンセプトや方向性、内部SEOといった集客に繋げる戦略、お問い合わせへの導線を改善するといったUI/UX施策、インフラ環境やシステム機能要件などを決定した後は社内の各関係部署や責任者の承認を獲得する流れが一般的です。
つまり、Webサイトの制作・リニューアルに着手する前に、制作に関わるメンバー全員の合意を形成する必要があります。
Webサイトの制作・リニューアルによって期待できる効果なども説明し、メンバー全員で共通認識を持つことが重要です。
相互理解を深めることで、制作・開発フェーズで再検討が発生するリスクを減らします。
4.要件定義書の作成
Webサイト制作に向けた要件定義の全体をまとめたら、具体的な内容を制作会社などの外注先と相談しながら細かく決めていき、その内容で要件定義書を作成します。
要件定義書は、発注側で作成する場合と、外注側に作成を依頼する場合があります。
要件定義書の書式は、一般的にWordやPowerPointなどさまざまで、以下の項目は網羅するようにした方がいいです。
プロジェクト始動後の設計や制作工程で迷いが生じた場合に、指針として見直せる内容にすることが重要です。
・Webサイト制作・リニューアルの背景と目的
・Webサイトの目標達成のための指標
・Webサイトのターゲットやコンセプト
・目標達成に向けた施策や条件、方針
・Webサイトのリリース予定日
・Webサイトの制作スケジュール
Web制作の要件定義書に記載すべき内容
Webサイトの制作に向けた要件定義書に記載すべき内容は、主に基本要件・システム要件・機能要件・タスクの4つに分類されます。
1.基本要件
基本要件には、Webサイトを制作・リニューアルする目的や公開後の運用方法、プロジェクト体制と進行方法、制作から公開までのスケジュール、Webサイトに掲載するコンテンツ、ブラウザサポートなどを記載します。
2.システム要件
システム要件では、WebサイトのURLやWebサイトにどのサーバーを使用するか、CMSやプログラム開発言語は何を使用するか、SSLの種類などWebサイトのシステムに関連する要件を記載します。
他にも、Googleアナリティクス・GoogleサーチコンソールのIDなども用意した方がいいでしょう。
3.機能要件
機能要件とは、UI/UX改善策に基づき、Webサイト全体や各ページにどのような機能や画面デザインをもたせるか、その条件を指します。
例えば、Webページ内でSNSにシェアする機能がある場合、シェアボタンやOGP機能の設定、投稿コンテンツがある場合は投稿ボタンが必要です。
また、Webページの表示速度、モバイル端末やOS・Webブラウザへの対応、機能一覧・詳細についても、機能要件に記載しておく必要があります。
OGP機能とは
OGP機能は、TwitterなどのSNS上に、ページタイトルや本文・画像などのコンテンツを表示させる機能です。
4.タスク
Webサイト制作の工程で実施すべきタスクとスケジュールも、要件定義書に記載する必要があります。
コンテンツ制作の場合は、ライターや編集者、デザイナーなど、システム開発にはエンジニアなどが担うタスクがそれぞれ存在し、それらを統括するWebディレクターのタスクもあります。
プロジェクト進行が順調か、それとも遅れが生じているのかを把握するためにも、タスクとスケジュールの詳細を要件定義書に記載しておきましょう。
要件定義のポイント12項目
Webサイトの制作やリニューアルを成功させるための要件定義は、下記12項目のチェックポイントがあります。
1.プロジェクトの概要
- リニューアルの目的を明記しているか
- リニューアルで実装する機能やスケジュールを明記しているか
プロジェクトの概要として、リニューアルの内容を簡潔にまとめておくことです。
Webサイトのリニューアルは、半年以上の長期にわたることも多いです。
そのため、実務をしているうちに、当初の目的やコンセプトが曖昧になってしまうことがあります。
概要を簡潔にまとめておくと、サイトリニューアルを開始した目的やコンセプトを振り返ることができます。
2.Webサイトリニューアルの目的
- リニューアル前の課題を記しているか
- リニューアルの目的や目指す効果を明確にしているか
なぜサイトリニューアルをするのか、という目的を明確にすることで、具体例としては、問い合わせ件数を増やすため、ブランドのファンを増やすためなどが考えられます。
目的を明確化するメリットは、以下の3つです。
(1)施策が具体化される
(2)施策の優先順位が判断できる
(3)社内の意見を統一できる
UI面での目的例
・デザインが古い
・情報が多すぎる
・操作性が悪い
・知りたい情報が見つけにくい
SEO面での目的例
・内部リンクが少ない
・コンテンツが不足している
・更新頻度が遅い
コンテンツ面での目的例
・重複コンテンツをまとめる
・導線を見直す
・動画を活用する
これにより、サイトリニューアルの目的や改善ポイント、実装したい機能が明らかになります。
予算とスケジュールの関係でアクションが限られる場合は、重要度と緊急度を踏まえて優先順位をつけるとよいでしょう。
3.Webサイトのコンセプト
- ターゲット、ペルソナは誰が対象か
- ターゲットに伝えたい内容やメッセージをまとめているか
どのようなターゲットに、どのようなメッセージを伝え、何をしてもらうのかというWebサイトのコンセプトを明確にします。
例えば、営業ツールを販売するためのサイトである場合、企業の営業担当に自社ツールの便利さを伝えて、実際に使ってもらうことなどがコンセプトになります。
コンセプトが固まることで、Webサイトに必要な機能や適したWebサイトデザインが見えてきて、Webサイト内のキャッチコピーやデザイン、コンテンツにも、一貫性が生まれます。
もし、リニューアルでWebサイトのロゴを変える場合は、商標を取っているのかを確認しておくとよいです。
未登録のまま使用し続けていると、気づかないうちに他社に商標を取られてしまい、ロゴが使えなくなる可能性が出てきます。
中には、話題やトレンドになり、多くの人に自社のWebサイトが知られるようになったタイミングで、突然横取りされるケースもあります。
Webサイトリニューアルの途中から商標登録の手続きを始めると、スケジュールの遅延につながるため、要件定義のタイミングで確認するのが最適です。
4.プロジェクトの体制
- プロジェクトに参加するメンバーの情報をまとめているか
- ミーティングなどを行う日を決めているか
プロジェクトに加わっているメンバーの氏名や役職、役割、担当業務などをまとめることで、役割や責任の所在などが明確になり、誰に何を確認すればいいのかが把握しやすくなります。
また、定例ミーティングの開催日や進捗状況の報告・頻度などについても決めておくのがいいでしょう。
5.Webサイト制作の費用・予算
- Webサイト制作・リニューアルにかかる費用を確認できているか
- Webサイト制作・リニューアルの予算を明記しているか
Webサイトのリニューアルに必要なコストを明確にすることです。
費用間を明示することで、改善効果の大きい施策から優先的に実施できるようになり、無駄なコストの削減にもつながります。
サイトリニューアルの費用感は、下記を参考にしてください。
(サイトリニューアル費用:実施できる範囲)
10万~50万円程度:限られた範囲での機能実装やデザイン刷新が基本となる
50万~100万円程度:小規模なサイトであればサイト全体のリニューアルができる
100万~200万程度:中規模・大規模のサイトとなると、限定的な新機能追加やシステム組み込みができる
200万~1,000万円程度:大幅な機能改修や追加、デザイン刷新ができる
1,000万円~:すべてのページデザインを刷新し、機能やシステムの根本的な改修も実現できる
サイトリニューアルの予算は、Webサイトの規模や目的によって大幅に上下し、費用の内訳例としては以下の通りです。
・ディレクション
・サイト設計
・デザイン
・コーディング
・コンテンツ・記事制作
・動作確認・検証
6.サイトリニューアルのスケジュール
- リニューアル公開日時の詳細を明記しているか
- 公開までの工程は調整できているか
まずは、公開日を〇月〇日〇〇時と時間まで細かく設定して、そこから逆算してスケジュールを組むことが最適です。
(例)サイトリニューアルの工程
・サイト設計
・デザイン制作
・コンテンツ制作
・コーディング
・システム開発
・動作確認
など
規模の大きいサイトリニューアルになると、公開までに半年以上かかることも多いため、システム会社やWeb制作会社などと調整しながら、余裕をもったスケジュールで進めます。
また、プロジェクト進行中は、柔軟にスケジュール調整をすることも重要です。
公開日から逆算してスケジュールを作成し、発注者・Web制作会社・システム開発会社との綿密な打ち合わせが欠かせません。
7.Webサイトの構成
- サイトの構造をまとめているか
- ページ構成をあらかじめ構想しているか
Webサイトの構造をわかりやすくするためには、サイトマップの作成をおすすめします。
サイトマップとは、Webサイト全体のページやコンテンツの構成を、図式化あるいはリスト化したものです。
Webサイトの全体像が可視化されるため、プロセスや作業量を俯瞰的に把握できるようになります。
各ページのコンテンツの役割を明確にし、不要なページは削除する、他のページと統合した方がよいものは1ページにまとめるといった調整を行いましょう。
Webサイトに訪れたユーザーが迷いなく、目的のコンテンツにたどり着けるよう作成し、回遊率や滞在率を高めるため内部リンクも最適化します。
8.Webサイトに実装する機能
Webサイトのリニューアルで実装する機能の内容をまとめます。
具体例としては、下記のようなものが挙げられます。
(例)サイトリニューアルで実装する機能
・SNS連携のシェアボタン
・会員限定ページ
・決済機能
など
機能を設計する際には、問い合わせ件数を増やしたり、ブランドのファンを増やしたりするなど、サイトリニューアルでの目的を達成するには何が必要なのかを考えます。
9.Webサイトの環境
- 開発言語は何にするか、どのようなソフトウェアを導入するか
- 元のWebサイト環境を明記しているか
サイトリニューアルに用いる開発・プログラミング言語や、導入するソフトウェアなどの構築環境をまとめておきます。
現在、使用しているWebサイトの環境から変更する場合は、要件定義書に元の環境も明記しておくと安心です。
もし、変更後に問題が発生した場合には、以前の環境と比較することで解決の糸口になることもあります。
また、WindowsやMacなど対応可能なOSの種類、SafariやGoogle Chromeなど、どのWebブラウザに対応させるかについても記載すると、Webページが動作しないなどのトラブルも防げます。
10.インフラ環境
- サーバーは何を、どこのを使うか
- ドメインは維持するか、変更するか
要件定義では、サイトリニューアル後のサーバーやドメインなど、インフラ環境についてまとめておくことも重要です。
サーバーには無料のものもありますが、容量が小さかったり勝手に広告が表示されたりするというデメリットがあります。
そのため、企業のWebサイトであれば、容量が大きくて稼働も安定する有料サーバーを利用することが望ましいです。
ドメインは、新規で取得することも、現状のものを継続して利用することもできます。
ただし、ドメインを新規に取得する際は、SEOの評価が0からの出発になるというデメリットもあります。
ドメインをどうするかについては、システム会社などと相談して方針を決めるようにしましょう。
11.セキュリティ要件
セキュリティ環境のレベルはどうか、などセキュリティ要件を定めておくことです。
要件定義書には、以下のようなセキュリティに関する要件を記載しておくとよいでしょう。
(例)セキュリティ要件の内容
・SSL対応
・IP制限
・セッションタイムアウト
など
特に、Webサイト内で氏名や住所、クレジットカード情報などといった個人情報を扱う場合は、情報漏洩防止や保管方法など、高度なセキュリティ環境の構築が求められます。
そのため、どの程度のセキュリティが必要なのかを検討する必要があります。
一般的に、セキュリティのレベルを上げるほどコストもかかるため、セキュリティ環境のための予算は、あらかじめ十分に確保しておくことが重要です。
12.Webサイトの運用方針
- リニューアル後は誰がどのように運用するか
- 保守運用を外注する場合はどの範囲まで依頼するか
最後は、リニューアル後にサイト運用を誰がどのように行うのか、保守運用は外注するのかといった運用方針をまとめておくことです。
保守運用を外注する場合、どの範囲までを依頼するのかなどを要件定義書に明記しておくと、後でトラブルになることを防げます。
まとめ
要件定義は、Webサイトの制作やリニューアルを成功させるために不可欠な、いわゆる仕様書です。
専門的な内容で判断が難しい部分に関しては、システム担当や制作担当、制作会社などに相談することをおすすめします。
上記で紹介した、要件定義のポイントを押さえながら、現状の課題を解決できる制作・リニューアルを目指したいものです。
要件定義を固めて手戻りのないWebサイト制作を目指す
要件定義は、新規でのWebサイト制作やリニューアルの際に、制作の方向性を指し示し続ける重要な役割をもっています。
手戻りのないサイト制作を実現するためにも、要件定義の際に関係各所への要望、課題のヒアリングを欠かさないようにしましょう。
また制作会社への依頼の前には、提案依頼書(RFP)の作成を行うと、課題やWebサイトのターゲットの整理に役立ちます。
終わりに
以上で、Webサイトの制作・リニューアルに向けて、要件定義が必要な理由と流れ、要件定義書に記載すべき項目について解説しました。
この記事では、Webサイトのリニューアルを中心にしましたが、新規でWebサイトを制作する場合も同じ要領で進めることになります。
ただし、このケースはあくまで一例であり、これが正解というものでもありませんが、スムーズに進めるための理想的な流れとして、頭に入れておくとよいでしょう。
この通りに進まないことももちろんありますし、各種情報コンテンツや写真・イラストなどの素材が揃わない場合も出てくるため、外注先と相談しながら進めていきたいものです。
Webサイトやブログの制作を進めていく上で、どんな工程があり、いつどんな情報が必要となるのかイメージがついたら幸いです。