
梅雨の時期に咲く印象の強い、紫陽花。
低く垂れ込めた雲とジメジメした湿気で、憂鬱になりがちな時期に彩り豊かに咲いて私たちの目を楽しませて心を清々しく魅了してくれます。
そんな雨の日にこそ華麗に輝く紫陽花の生態や名前の由来についてご存知でしょうか。
今回は紫陽花の原産地から現在の花姿になるまでの経緯、品種による特徴の違いを説明します。
紫陽花という名前ができた由来や花言葉についても紹介しますので、ご参考になれば幸いです。
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アジサイの特徴・生態
紫陽花(アジサイ)は、6月から9月上旬にかけて比較的長い期間に開花する低木です。
主に梅雨のシーズンに咲かせるのが大きな特徴で、晴れの日よりも雨の日こそ美しく輝かせる不思議な魅力があります。
青や紫、ピンクのほか白やグリーンなど、品種改良によりさまざまな色合いや形の品種が続々と登場しています。
紫陽花の原産地は日本だけど

紫陽花の原産地は日本で、そのもととなる原種はガクアジサイです。
品種の特徴については後述しますが、紫陽花は当時の日本では品種改良をしてもあまり人気がありませんでした。
そこで植物学者シーボルトの紹介により、日本の改良種であるホンアジサイが海を渡ってヨーロッパへと伝わっていきます。
イギリスなどで品種改良が進められ、その後にセイヨウアジサイとして日本に逆輸入されるようになりました。
一般的に見られる丸い紫陽花はセイヨウアジサイで、栽培する水や土、気候によって華やかに変身を遂げていったわけです。
植物学者シーボルトについて
日本原産のアジサイを海外に紹介したシーボルトは、ドイツ生まれの医者であり植物学者です。
江戸時代に長崎・出島のオランダ商館の医師として来日し日本人医師の育成をする傍ら、日本の文化や植物などを世界に広く紹介したことで知られており、数ある植物の中でも特に紫陽花を愛したとされています。
花びらに見える部分は実は…

雨の降る季節に花を咲かせる紫陽花ですが、青やピンクなど花びらのように見えるのは本来花びらを支える萼(ガク)が変化したものです。
わかりやすいガクアジサイという品種を例に見ると、周辺に4~8輪の花が咲いているように見えますが、これは萼です。
その中央に蕾のような粒状が点在しているのが、花びらになります。

街中でよく見られる丸い形のセイヨウアジサイでは、たくさんの花をつけているように見えるのが花びらではなく萼なのです。
その花に見える萼の中央をよく見ていただくと、粒状もしくは小さな花の形をしているのがわかると思いますが、これが本当の花となります。
紫陽花の花色が変わる理由

紫陽花の咲き始めは葉の色素により黄色や黄緑をしていますが、開花が進み成熟するまでに色を少しずつ変えていき青や赤などに変化していきます。
その花びらに見える萼の色が変わる原因は、主に土壌の成分です。
土中のアルミニウムが吸収されると、アントシアニン系色素と結合して発色します。
アルミニウムは酸性の土壌でよく溶けますが、アルカリの土壌では溶けない性質があります。


酸性の土では青色に、アルカリ性の土では赤色を帯びていき、日本でブルー系統の紫陽花を多く見かけるのは日本の土壌が主に酸性であるためです。
ピンク系統の紫陽花は、ほとんどが逆輸入された品種とされています。
紫陽花の咲き始めは萼の中に葉緑素があるため薄いグリーンですが、開花が進むにつれて色を変えていくわけです。

なおアナベルなどの白いアジサイには色素の元であるアントシアンが含まれないために変化はしませんが、他にもとから変化しない品種もあります。
そして最盛期を過ぎて萎れていく時は、赤みを増していくのを見たことがある人も多いでしょう。
これは細胞の中に二酸化炭素が溜まることで色が褪せる、つまり老化現象であり土壌の成分とは関係ありません。
紫陽花という名前の由来
紫陽花は、実は2つの単語を組み合わせて生まれた和名です。
アジは集まるの「あつ」、サイは藍色を示す「真藍(さあい)」からきており、小さな藍色の(青い)花がたくさん集まって咲く様子に由来しているといわれています。
漢字の「紫陽花」

漢字の紫陽花は諸説ありますが、真の藍色の花が集まって咲くことを意味する「集真藍(あづさあい)」が転じたという説が濃厚とされています。
真っ青(藍)な小さい花が集まった植物、といった感じでしょうか。
また、紫陽花は花部分が成熟するまでに色を少しずつ変えていくため「七変化」「八仙花」という別名で呼ばれることもあります。
紫陽花の英名「Hydrangea」

アジサイの英名は「Hydrangea(ハイドランジア)」と表記し、和名と同じく2つの単語が組み合わさっています。
ギリシャ語で水を意味する「hydro-」と、器を意味する「ange」の2つある単語が語源で、「水の器」という意味です。
その名前通り、紫陽花は多くの水を吸収する植物といえるでしょう。
雨の多い梅雨シーズンに映える紫陽花といえば、納得のいく語源といえます。
紫陽花の代表的な品種と特徴
紫陽花の品種は現時点で日本に約10種程度あり、アジアや北アメリカでは約40種が存在する低木です。
ここでは、日本国内で紫陽花を見る時に知っておきたい代表的な品種を紹介します。
ガクアジサイ(額紫陽花)

ガクアジサイは、蕾のように点在する粒状の花を囲みながら花びらに見える萼が咲き、横から見た形が比較的平べったいのが特徴です。
ガクアジサイという花名は、萼の装飾花が中心の小さな花を取り囲むように咲かせる花姿が額縁のように見えることから由来しています。
日本固有の紫陽花で原種でもあり、このガクアジサイから多くの品種が生まれました。
伊豆諸島や三浦半島、房総半島が自生地であり、国内外に咲く紫陽花はガクアジサイの改良種でありこの地から世界に広がったといっても過言ではありません。
セイヨウアジサイ(西洋紫陽花)

セイヨウアジサイは、日本原産のガクアジサイを国内で改良したホンアジサイがヨーロッパなどで品種改良され、再び日本へ逆輸入された品種です。
花に見える萼をたくさんつけてこんもりとボール状に丸くなっているのが特徴です。

日本であまり見ることのない赤色や濃い紫のほか、グリーンとピンクのツートンカラーなど花色も豊富に見られます。
ボリューム感と華やかさが印象的で、一般的な紫陽花として多く流通しています。
ヤマアジサイ(山紫陽花)

ヤマアジサイは、ガクアジサイに似ていて混同しがちですが、半分日陰になっているような湿り気のある山林に生育しているのが特徴です。
沢に多く見られることから、別名でサワアジサイとも呼ばれます。
またヤマアジサイの花形は小ぶりで華奢な印象がありますが、ガクアジサイは大きく華やかなイメージです。
背丈はガクアジサイが2~3メートルにもなる一方、ヤマアジサイは1~2メートルと低めで見分けられます。
ウズアジサイ(渦紫陽花)

ウズアジサイは、花びらに見える萼の縁が内側に渦を巻くように丸まり、スプーン状に見えるのが特徴です。
その花姿がおたふく豆に似ていることから、別名でオタフクアジサイ(お多福紫陽花)とも呼ばれます。
カシワバアジサイ(柏葉紫陽花)

カシワバアジサイは、深い切れ込みのある柏に似た形の葉と白くボリュームのある円錐形の花房が特徴です。
後述するアナベルと同じアメリカ原産で、一般的な紫陽花とは異なる一風変わった花姿が花も葉も目を引くほど大きく存在感があります。
開花直後の花色は白ですが、開花が進むにつれてピンクや緑色へ変化していく様子を楽しむことができます。

花姿はまっすぐ上へと伸びますが、八重咲きの品種は雨を含むとずっしりと重くなり枝をたわませ下向きにうつむく姿も優雅です。
アナベル

アナベルは、和名ではないことからわかる通り日本原産ではなく、北アメリカ東部原産でアメリカノリノキというアジサイの仲間です。
小花がたくさん集まったボールのような丸いフォルムが特徴で、咲き始めはライムグリーンですが、咲き進むにつれて白色になっていくため花色の変化を楽しめます。
近年では品種開発によりピンク色のアナベルも登場し、淡いベビーピンクから濃いピンクへ変化します。
アナベルという花名は初めてこの変異種が見つかったのがイリノイ州のアンナ市だったためで、古代ローマの男性の名前を女性化したのが由来だそうです。
ホンアジサイとセイヨウアジサイの違い

前述でも登場したホンアジサイというのは、原種であるガクアジサイを日本で品種改良した栽培種です。
額縁のように咲くガクアジサイと違い、丸くこんもりと咲かせる花姿が特徴でこのような咲き方を「手毬咲き」と呼びます。
そのホンアジサイが海を渡りヨーロッパで品種改良されて、日本に逆輸入されたのがセイヨウアジサイです。

セイヨウアジサイという名前ではあるものの、もともとは日本生まれの植物であることに変わりはありません。
とはいえ、当時の日本では人気のなかった紫陽花が海外での品種改良によって変身を遂げて人気となりました。
そのため、公園や街中で見られるボリュームのある手毬型の定番である紫陽花はほぼセイヨウアジサイといってよいでしょう。
紫陽花の花言葉

紫陽花には、多くの花言葉があるのをご存知でしょうか。
紫陽花全体の花言葉
紫陽花全体 | 移り気・冷淡・浮気・団結・和気あいあい・家族団らん |
紫陽花全体の花言葉としてよく知られるのは「移り気」で、咲き進むにつれて色が変わる性質からきています。
恋人に贈ってはいけない花ともいえますが、他にも「冷淡」「浮気」といったネガティブなイメージの花言葉が多い印象です。
しかしその一方で、小さな花に見える萼がたくさん集まっている様子から「団結」「和気あいあい」「家族団らん」といった花言葉もあります。
紫陽花の色による花言葉
他の花と同じように、紫陽花には色によっても花言葉は異なります。
青色の紫陽花 | 辛抱強い愛情 |
赤色の紫陽花 | 元気な女性 |
白色の紫陽花 | 寛容 |
紫色の紫陽花 | 神秘的・清澄 |
緑色の紫陽花 | ひたむきな愛 |
青色系統の紫陽花には「辛抱強い愛情」、ピンクを含む赤色系統の紫陽花は「元気な女性」といわれています。
色がほとんど変化させない白色の紫陽花の花言葉は「寛容」です。
近年では母の日のギフトとして定番の赤いカーネーションだけではなく、ピンクやブルーの紫陽花が選ばれていることが多いのもうなずけますね。
母の日については、下記記事をご参考ください。
紫陽花の品種による花言葉
紫陽花には、品種による花言葉が実はあるのをご存知でしょうか。
ガクアジサイ | 謙虚 |
ヤマアジサイ | 乙女の愛・切実な愛 |
カシワバアジサイ | 慈愛 |
ウズアジサイ | 移り気・幸福 |
アナベル | ひたむきな愛 |
ガクアジサイ(額紫陽花)は、人目につかない場所でひっそりと咲く姿に由来して「謙虚」という花言葉がつけられています。
ヤマアジサイ(山紫陽花)は、普通に見られる紫陽花に比べて華奢な姿をしているのが特徴です。
その清楚で可憐な姿をイメージして「乙女の愛」、素朴で凛とした花姿が健気で一途な愛を思わせることから「切実な愛」の花言葉がつけられました。
カシワバアジサイ(柏葉紫陽花)の「慈愛」は、透明感のある白い花が内面の純粋さや深い愛情を象徴しているためです。
アナベルは、一途な愛情を表現して「ひたむきな愛」という花言葉です。
これはアナベルの花が咲き始めから終わりまで色を変えることなく同じ色を保ち、長く咲き続けることに由来しています。
ウズアジサイ(渦紫陽花)の花言葉は、「移り気」と「幸福」です。
渦巻くような萼片の形や変異品種であることから移ろいやすいといった意味合いで「移り気」とつけられたと考えられています。
また、おたふく豆に似ているという由来で縁起が良いとされる「お多福紫陽花」と名づけられていることからポジティブな意味合いをもつ幸福にも関連するとされています。
紫陽花の意外な生態まとめ

雨降る日には、他の花に比べてより一層輝きを放つ紫陽花。
まだ色素が含まれていない薄いグリーンの状態から、開花が進むにつれて花色が少しずつ変化していくのを楽しめるのは紫陽花しかないでしょう。
梅雨が近づくと、全国各地で紫陽花の開花情報が飛び込んできます。
紫陽花の観光スポットに出向いて、品種で異なる特徴や花色の変化を楽しんでほしいものです。
また紫陽花は、初夏に花期を迎えることから母の日や父の日ギフトにもぴったりの花木です。
毎年カーネーションを贈っているのでマンネリ気味、今年はいつもと違う花やプレゼントを贈りたいと考えている人は、涼しげで爽やかな紫陽花も候補に入れてみてはいかがでしょうか。
以下の記事では、関東の紫陽花スポットを紹介しています。
海の見えるあじさいロードや真っ白な城とのコントラスト、電車の走る鉄道沿いに広がる珍しい組み合わせなど圧巻の観光ポイントですので併せてお読みください。
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