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誰もが一度は心に潜んでいる「傲慢と善良」のあらすじ、感想・レビュー

2023年8月13日

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「傲慢と善良」・辻村深月

学生時代から親の言いなりや周りの影響で、今日まで生きてきたとき。

自分の意志を出せないまま、八方塞がりで身動きがとれなくなったとき。

あなただったらどんな思いで、過去を乗り越え前へ進みたいでしょうか。

今回紹介する本は、辻村深月さんの「傲慢と善良」です。

当ブログでは、本の中で気になった言葉や心に残るメッセージを引用しつつ感想を書いていきます。

文中には書籍の内容も含まれていますので、読みたくない方は「感想・レビュー」の見出しにかかる本文を飛ばして読んでいただけると幸いです。

傲慢と善良:基本情報

書籍名:傲慢と善良
作者名:辻村深月
出版社:朝日新聞出版(朝日文庫)
発売日:2022年9月

主要な登場人物

西澤 架(にしざわ かける)

主人公。婚活を経て坂庭真実と出会い、婚約まで至るも真実が行方不明になり、真実の故郷や過去を探ることになる。

坂庭 真実(さかにわ まみ)

架の婚約者。自分の意思が薄く、婚活がうまくいかないことなどにコンプレックスを持っているが、ある日突然行方不明になる。

簡単なあらすじ

主人公の西澤架は、いつも通り帰宅した自宅に、同棲中で家にいるはずの婚約者・坂庭真実がいないことに気づく。

姿を消した真実の手がかりを探すべく、架は彼女の過去と向き合うことになるのだが。

浮かび上がる現代社会の生きづらさと、徐々に明かされていく失踪の理由とは?

恋愛だけでなく生きていく上でのあらゆる悩みに答えてくれる物語、と読者から圧倒的な支持を得た作品。

感想・レビュー

感想・レビューの文章内にはネタバレもありますので、読みたくない方は、この本文を飛ばして読んでください。

第一部/失踪した真実を追う架

架が学生時代の友人、美奈子たちと飲み会をしていると、恋人の真実からストーカーが自分の部屋にいると電話がかかってきます。

心配した架は、自分の家にくるように指示し、それから真実は架と暮らすことになります。

架はそのまま真実に結婚を申し込み婚約するのですが、結婚を控えたある日、架が家に帰ると真実が家にいません。

次の日も真実は帰ってきませんでした。

真実の実家がある群馬の両親にも話し、架と真実が住む東京に来てもらうものの誰も心当たりがありません。

警察にも通報しましたが、事件性が感じられないという結論で捜査してくれませんでした。

架は、真美からストーカーの犯人は自分が群馬にいた時のお見合いで、真実から振った男性だと話していたことを思い出し、どうしてその時に犯人を捕まえようとしなかったのか、せめて警察に通報しなかったのかと自分を責めます。

真実の両親は、もしかすると真実が自分の意思で家出をしたのかもしれないと考え、世間体のためにこの失踪を大ごとにしたくないようです。

そんな真実の両親にも嫌気がさした架は、自分で真実の居場所を突き止めようと群馬で結婚相談所をしている小野里さんの元へ向かいます。

真実は、東京に出てくるまで、実家のある群馬の県庁で父親の口利きにより臨時職員として働いていました。

恋人ができなかった真実は婚活をすることになりますが、合コンなどには気乗りがしなかったため、母親の陽子に紹介してもらった知り合いの小野里さんが運営する結婚相談所に登録します。

この結婚相談所では、陽子が高学歴の候補者を最初に見つけてきますが、候補者のファッションセンスなどを理由に真実は彼を断ります。

次に、真実は自分で好みの外見の男性と出会いますが、話がどうしても続かなかったため、今度も真実は断ります。

真実の両親と小野里の話を聞いて、架はこの結婚相談所で出会った2人はストーカーの犯人ではないだろうと思ったのですが、念のため2人に会うことにします。

1人目の彼はカジュアルで社会人とは思えない服装をしていましたが、すでに結婚をし、3人目の子どもがもうすぐ生まれるとのことでした。

2人目の彼はまだ独身で、確かに会話も続きませんでしたが、失踪した真実のことを本気で心配しているようでした。

ストーカーの正体を探っていくとともに、真実の過去を知っていく架に浮かび上がってくるのは、現代社会の生きづらさと苦悩、そして迷いです。

どう見ても真実は誘拐されたように思えず、かといって自分の意思で失踪しているにしてもおかしいと思っていた矢先に、架は友人の美奈子たちに呼び出されます。

美奈子によると、真実は本当はストーカー被害には遭っていなく、架に結婚に踏み切ってもらうための嘘ではないか、というのです。

この美奈子たちの言動には、すでに結婚が決まっている2人を引き裂くかのような遠慮のない図々しさで少し苛立ちがありましたが、もしそれが本当のことだとしたら架にとっても答えに近づく一歩でもあるので怒りを抑えながら続きを読みました。

第二部/真実の自分探し

ここからは、真実の視点に切り替わります。

実際には、美奈子たちが真実に言ったことは当たっていました。

真実が消えた前日、真実は寿退社する職場の退職祝いをレストランで行っていました。

その場には、美奈子たちも偶然居合わせていました。

美奈子は、結婚祝いをと真実を自分たちのテーブルに呼び、ストーカーの話は嘘ではないかと問い詰めます。

勘が鋭い美奈子たちは、真実のいうストーカー被害に矛盾点がいくつかあることを見抜いていたのです。

架にはいわないと約束はしたものの、真実は屈辱で何も言い返すことができませんでした。

それにはまた別の理由があり、真実は架のことを100点の婚約者だと思っているのに、架が真実のことを70点の相手だということも美奈子たちに告げられ、自信を失ってしまったのです。

真実が失踪したのはこの出来事が原因だったのです。

美奈子たちから失踪前夜の出来事を聞かされた架は、デリカシーのない美奈子たちに怒りを覚えますが、同時に真実のストーカー被害が嘘であったということを認めざるを得ない状況になります。

この美奈子たちの言動も苛立ちがありますが、反面、噂好きの女性ってそうだよねという納得できる部分もあったりします。

美奈子たちに対して架が怒るのも当然だと同情の気持ちも芽生えるのですが、架自身にも反省すべき部分もあるでしょう。

美奈子たちの行いは約束を破ったことも含め問題はあるものの、これが架や真美の本当の気持ちを知るきっかけになったことは間違いないです。

失踪した真実は、行き場をなくしどこか知らないところに行きたいと、東北のボランティア活動に住み込みで参加することにします。

そこでは、さまざまな事情を抱える人々が協力し合いあらゆる活動をしており、真実は写真を綺麗にする手伝いをしながら少しずつ周囲の人たちと馴染んでいきます。

次の仕事として宮城県での地図作りにも慣れ始めた頃に、真実は偶然神社を発見します。

神社の特徴的な模様を見て、最初の仕事で見た誰のものかわからない結婚式写真の場所だと確信した真実は、写真館の人たちにその写真を神社まで持ってきてもらいます。

自分の行動で写真の持ち主がわかったことで、自分の存在意義を感じることができ感動します。

その後に写真館を手伝っている学生にインスタを見せてほしいと言われた真実は久しぶりに自分のアカウントを確認します。

すると、コメント欄に架から、(ストーカーが)いないことはわかっているから話がしたい、というメッセージを見つけます。

どうしていいかわからなくなった真実は、その場にいる人たちに自分がどうして宮城にやってきたか、婚約者から逃げてしまったことなどを話します。

その時にお婆ちゃんから「大恋愛をしているんだね」と優しい声をかけられた真実は意を決して、架に連絡をします。

今は少しだけ待ってほしい、けれど必ず連絡をします、と伝え、数ヶ月後に架は宮城までやってくるのです。

真実は架に謝ると同時に、架に自分が70点と言われて悲しかったこと、美奈子たちと一緒にいることが苦痛だったことを訴えます。

架は、すべてを受け入れ、もう一度真実にプロポーズをします。

真実はそれを受け入れ、そのまま地図作りの際に出会った神社で2人だけの結婚式を挙げるのです。

干渉的な真美の両親や架の周りの人は関係ない、2人だけの問題であることを確認し合い、今度こそ幸せをつかもうと願うのでした。

感想・レビュー総まとめ

序盤からいきなり真実のストーカー騒ぎから始まったものの、2人が婚約をするまでの間にストーカーに対する不安や心当たりといった具体的な動きや情報がなかったため、その後に真美が消えるという展開にサスペンスなのかと思いながら読み進めていました。

事件性がないことで捜索しないことになった警察の代わりに、主人公が婚約者を探しに真美の周辺を洗い出していくところで、ミステリー小説の印象に変わります。

しかし、架が結婚相談所の小野里さんと心理戦のような攻防を繰り広げている流れで、これは現代人の恋愛における手引き、あるいは指南書だということが見えてきます。

私たち現代の若者や大人がもっている「傲慢」と「善良」が邪魔をしているので、婚活というのはうまくいかないのです。

大人になるまで母親に従うばかりの人生を歩んできて、強い意志をもたない真実は、人より劣っている部分などないのに結婚相手がなぜか見つかりません。

架のような良い人に出会ったとしても、ストーカー被害に遭っているような意味のわからないことをしてしまうのです。

架がリードをとっていたようなこの恋愛が、終盤では真実の方が主体になっていて、きちんと対等にいるところを見て、こんなお似合いの夫婦はないだろうと心から2人を祝福したくなりました。

この先の人生、子供や親戚、友人付き合いなど、いろんなことが起きてもきっと、自分たち夫婦の軸を大事にしていけるでしょう。

架も真実もよいタイミングで出会い、偶然を積み重ね、そして真実の嘘も失踪も2人のこれからに向けて必要なことだったのだろうと思います。

響いた言葉

―皆さん、謙虚だし、自己評価が低い一方で、自己愛の方はとても強いんです。
傷つきなくない、変わりたくない。高望みするわけじゃなくて、ただ、ささやかな幸せが掴みたいだけなのに、なぜ。と。―

婚活中の男女からよく聞くのが、この人ではない、ピンとこないというものだが、そこには「自分に見合う価値のある誰か」という本音が潜んでいるのだと、結婚相談所の小野里さんは容赦なく切り捨てます。

また、現在は情報があふれていて結婚の前提として恋愛を求める傾向が強く、理想が高いことを指摘しています。

―現代の結婚がうまくいかない理由は「傲慢さと善良さ」にある。―

小野里さんは架に、現代の結婚がうまくいかない理由の1つに「傲慢さと善良さ」があると語っています。

善良に生きている人は親の言いつけを守り自分で何も決めずに、自分を見失ったまま大人になります。

一方、自分の価値観に重きを置きすぎている傲慢な部分ももっています。

自分から動くこともしないのに、プライドだけは高いなんてことになれば、結婚などできないという意味を伝えています。

そして、善良さは過ぎれば世間知らず、無知でもあるともいっています。

―特別でない、と思っていた恋人だった。
けれど、そもそもそんなふうに思うこと自体が傲慢であり、間違いだった。―

架が、過去に恋人だったアユのこと回想している場面です。

アユは明るく社交的で、架の父親が亡くなった時にも寄り添ってくれた優しい女性だったが、彼女の結婚したいという気持ちにすぐに答えることができず、結局アユから別れを切り出されてしまいました。

いつかは結婚するんだろうとぼんやり考えていたのですが、そのいつかをアユに押しつけていたのは架の傲慢であり、思い上がりだったということにアユと別れてから気づかされるのです。

―嬉しかった。
自分がここに来たこと、自分がいることに何か意味があるなんて、これまで、誰からも言ってもらったことがなかった。―

真美がボランティアをするために単身で仙台へ行き、地図作りで町を歩いている際に、洗浄作業を行った写真と同じ場所を偶然発見し、写真を届けたことに感謝された場面でのことです。

今まで親に言われるまま善良に生きてきましたが、初めて誰かの役に立つことができて自分がいることの存在意義を見出しました。

真美がこの行動を起こしたことは、これまでの家族や架、周囲との関係、自分自身について考える良い機会になり、架と正面から向き合う決意ができたという意味でもとても良い時間だったと感じます。

―「真実」
架に呼ばれ、手を引かれる。手をつなぎ、正面を向く。そこにまた、カメラのフラッシュが光る。
架に摑まれたその手を、自分の意思で、真実もまた強く握り返した。―

真美が見つけた仙台の神社で、架と結婚式を挙げることができたシーンです。

真美と架がたくさん迷って、遠回りして決断した結婚にはとても意味があると思います。

また、両親や親族、友人に何を言われようと、結婚は真美と架の問題であること、だから2人だけでスタートを切る潔さもよかったです。

まとめ

傲慢とは、偉そうな態度で人を見下すことや見くびって礼儀を欠くことです。

善良とは、道徳的に正しく性質が穏やかで素直であることです。

この2つの単語が並べられたタイトルは、登場人物のことを表しており、架と真実はそれぞれに傲慢であり、善良であるところが描かれています。

架は結婚相手を選ぶという視点をもつところが傲慢であり、嘘でも好きという選択肢を選ぶところは善良です。

真実は全てを投げ出して架にわがままを言うところが傲慢であり、相手のことを考え慈しむことができるところは善良です。

この物語は、婚活がきっかけとなっていますが、就活でもビジネスにおける商談でも同じことがいえると思います。

恋愛だけではなく、生きていく上でのさまざまな痛みやあらゆる悩みに答えが見つかる内容です。

例えば、就活で内定がとれなかった時にまたダメだった、と振り出しに戻されることで、自分が拒絶されていると感じる気持ちは誰でも同じです。

別にやりたい仕事ではないけど働かないと生活できないし、という割り切ったような投げやりな気持ちにもなります。

そんな気持ちでやっていたとしたら本来の自分がないことになり、いかに失敗しない道を探っているかに過ぎないでしょう。

結局は無意識だけれど、善良でありながら傲慢な気持ちから生まれるのです。

物事を「選ぶ」ということは、自分に見合うかどうか価値をつけている、自分に対する評価だけは高い、など人が無意識にやっているような、心の深いところまで描写したストーリーでした。

同作品を読んだ若い人には、自分は自立できているのかと考えさせられるでしょう。

筆者は高校時代には早く自立したいと思っていたので、大学進学を機に家を出ました。

実は自分も真実と重なるところがあり、高校時代までは何かを選択する時に誰かに意見を聞き、そのままその意見に従う生き方をしてきました。

特に母が真美の母親に似ていて、自分の思い通りにならないと気が済まない人でした。

高校卒業後の進路も、本当は手に職をつけたいと専門学校を志望していたのですが、母の出した条件は大学進学でした。

当時は、父も含めエリート街道を進んでいた母の存在は絶対であったからです。

でもやはり高校時代に友人たちと過ごしたり、修学旅行などで東京や広島など地元以外の風景を目にしたりしていくうちに、もっと知らない世界を見たいと思うようになるのです。

真実と同じように自立したい、自分の考えや判断を信じて行動したいと模索する日々を送ってきました。

だから真美が東北へのボランティアに参加したように、筆者も大学進学をチャンスにして家を出ました。

大学卒業後も地元に戻らないことを父は激怒しましたが、大手企業への就職内定を決めたことが文句を言わせない自分なりの反抗でした。

国内を旅しているのも、無意識に何かを得ようとしているからでしょう。

この小説を読んで、もし今のあなたが自分の考えではなく、親や周りの意見に流されて日常を過ごしていると思ったなら、改めて自分の生活や人生のプランを考えたいと思うでしょう。

何かを選択する時には、自分の考えや判断を信じて自分の意志で決めたいと思えるでしょう。

また、人はどうしても点数をつけて見てしまうことがあります。

自分の狭い価値観で周囲の物事を判断してしまっているのではないか、改めて見つめ直してみることも時には必要です。

これまで考えもしなかったことが急に疑問に思えるようになったり、何気ないことが実はただの思い込みなのではないかと気づかされます。

最後に、この小説を読んでどうすべきかは、人それぞれです。

自分自身の傲慢さも善良さもすべて受け入れていくか。

世の中の人々の考え方、さまざまな価値観をもつ人たち、女性の強さや男性の鈍さなどもわかった上で、自分で決めたことに覚悟をもってこれから恋愛をしたい、生きていきたい、そう思ってくれたらいいなと感じます。

傲慢と善良、一見すると両立しない言葉のようですが、1人ひとりの心の中に確かに存在します。

著者の辻村深月について

辻村深月(つじむら・みづき)

1980年2月29日生まれ、山梨県出身。

千葉大学教育学部卒業。

2004年「冷たい校舎の時は止まる」で第31回メフィスト賞を受賞しデビュー。

2010年「ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。」が第142回直木賞候補作となる。

2011年「ツナグ」で吉川英治文学新人賞。

2012年「鍵のない夢を見る」で直木賞。

2018年「かがみの孤城」で本屋大賞を受賞。

他の著作に「子どもたちは夜と遊ぶ」「凍りのくじら」「スロウハイツの神様」「光待つ場所へ」(以上、講談社)、「太陽の坐る場所」(文藝春秋)、「ふちなしのかがみ」(角川書店)などがある。

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