梅雨が明け暑い夏がやってくる頃に、ピンク色の大きな花を咲かせるハス(蓮)。
泥の中で可憐に咲く植物なのに、清らかな象徴として仏教とも関わりが深い花であることをご存知でしょうか。
今回は、日本人にも馴染み深いハスの特徴や生態、開花時期について紹介します。
また、仏教との関係や品種ごとの違い、花言葉についても解説していますので、神聖な花とされるハスを知るきっかけになれば幸いです。
ハスの特徴・生態
ハスは、ハス科の多年生水草で、独特の花や葉が美しい水生植物です。
春は、水底や土の中に地下茎を作り、最初に出る2枚の葉が水面に浮き、その後に出る葉は水上に出て成長していきます。
夏になると、淡紅色や白の花が開き、水の上に花茎を出して咲きます。
花が朽ちて秋も深まる頃には、土中にある地下茎が私たちも目にするレンコン(蓮根)となります。
ハスの葉
ハスの葉は、特殊な構造で水をはじく性質があるため、雨水の雫が水の玉になって浮かんでいるのを見たことがある方も多いでしょう。
また、葉の筋が空洞になっているため、茎から水を流し込むと、葉の先から水がシャワーのようにあふれ出るといった面白い特徴もあります。
ハスとレンコンの関係
ハスは、水底の土中に塊茎をつくり、そこから葉と花茎を水面に伸ばす植物です。
その塊茎は、レンコンとして食用にされますが、食用にできる種類と観賞を楽しむ種類があり、花の観賞を楽しむ系統の塊茎は食用には向きません。
レンコンは、漢字で「蓮根」と書くようにハスの根を意味していますが、実際には蓮の地下茎が肥大化したものです。
地下茎とは、土の中に伸びる茎のことで、根っこのように見えることから名づけられています。
レンコンの大きな特徴は、大小さまざまな穴があいた独特な形状です。
日本では「先を見通す」という意味合いから縁起がよいとされているため、新年のおせち料理や節句などの行事食に用いられます。
ハスの咲く時期・期間
開花したハスの花は、7月中旬から8月中旬まで見頃が続きますが、実は命が短く、花びらが開き始めてからわずか4日程度で散ってしまいます。
また、ハスは午前中に花開き、午後には蕾のように閉じてしまうため、満開の花を目にするには、開花2日目の朝7時から9時ごろがおすすめです。
二十四節気の小暑に分類される七十二候に、「蓮始開(はすはじめてひらく)」というハスに関連する季節の言葉があり、時期は7月12日~7月16日ごろとなっています。
二十四節気と七十二候については、下記記事で解説していますのでご参考ください。
ハスの起源・歴史
ハスは、いつどこで生まれ、これまでにどう伝わってきたのでしょうか。
ハスは、北アメリカや日本、中国、ヨーロッパなどの北半球に位置する土地から化石が発見されていることから、白亜紀後期、約1億年前には地球上に存在していたとされています。
日本でも、弥生時代の地層からハスの実が発見されていることから、古くから親しまれていた植物です。
原産地はインド
ハスは、仏教の祖である仏陀(釈迦)の故郷・インド原産です。
各地の寺院では、仏様がハスの形を模した「蓮華座(れんげざ)」の上に安置されているのを見たことがある方も多いでしょう。
蓮華座の上に仏像が置かれているのは、仏様のいる浄土の世界には蓮華が咲いていると信じられているためです。
ハスは、仏教のシンボルとして尊ばれており、泥の中にあっても、まるで汚れを知らないかのように非常に美しい花を咲かせます。
この蓮華は、人間の煩悩に冒されず、迷いの中から悟りを開くことにたとえられているのです。
蓮華とは
蓮華(レンゲ)は、仏教の伝来とともに中国から日本に入ってきた言葉で、ハスの花やスイレンの総称です。
仏教においては尊い仏の悟りという象徴的な意味をもち、多くの寺院にある仏像はハスの花の上に座っていたり、脇にハスの葉が添えられたりしています。
ハスと仏教
ヒンドゥー教の神話には、泥の中から茎を伸ばして花を咲かせるハスの様子が清らかに生きることを意味して登場します。
このイメージが仏教にも継承されていき、知恵や慈悲の象徴とされ、死後の極楽浄土に咲く花として親しまれました。
そのため、如来像の台座や厨子という仏具の扉などにハスが彫られています。
このような宗教的背景からインドやベトナム、スリランカではハスを国花としており、多くの人に愛されています。
田んぼや沼などの水辺に咲くハスですが、濁った泥水の中で育つため、澄んだきれいな水は好みません。
むしろ泥水が濃いほど、まっすぐに伸びて美しい花を咲かせるのです。
泥を人間の煩悩や苦しみに見立て、どのような苦難が人生の中にあっても、心を汚れさせることなく美しく生きよう、という仏教の教えがあります。
そのことからハスは、仏教では「蓮華」という呼び名で、極楽浄土を象徴する花です。
ハスの名前と関連する言葉
ハスの花名は、中心の黄色い部分を指す花托(かたく)が、ハチの巣とよく似ていることから「蜂巣(はちす)」と呼ばれていましたが、その後、蜂巣が略されてハス(蓮)と呼ばれるようになったのが由来です。
ハスの別名
仏教において、尊い仏の悟りという意味を表すために、ハスやスイレンを総称して「レンゲ(蓮華)」と呼ばれています。
ハスの漢字「蓮」
ハスの漢字は「蓮」です。
水底に根を張り、連なって茎が伸びて花を咲かせることから、「連」にくさかんむりを組み合わせて「蓮」とされました。
また、幾重にも重なった花びらが特徴であることから、植物を表すくさかんむりと、連なるという意味をもつ「連」を組み合わせて、ハスの花を表現するようになった説もあります。
ハスの英名
ハスは、英語で「lotus(ロータス)」と表記します。
ギリシア語由来で、もともとはエジプトに自生するスイレンの一種である、ヨザキスイレン(Nymphaea lotus)を指したものといわれています。
ロータスは、多くのアジア文化で、純潔・誠実、そして悟りを象徴するシンボルとされています。
仏教やヒンドゥー教においても、ロータスは聖なる花とされており、神聖な存在と結びつけられています。
ちなみに、レンコンの英語は「lotus root」と表し、直訳すると「ハスの根」です。
ハスに関連することわざ
ハスに関連することわざとして、「蓮は泥より出でて泥に染まらず」という言葉があります。
その意味は、いくら汚れた環境に身を置いていても、その汚さに染まらず清く生きることです。
つまり、ハスのように「煩悩の汚れの中でも決して染まらず、清らかで純真な心や姿を保っている人」をたとえています。
ハスの品種
ハスの花は、たくさんの品種があり、その数は1000種を越えるといわれています。
ここではハスの観光スポットなどでよく見られる、代表的な品種と珍しい品種を紹介します。
コダイハス(古代蓮)
古代蓮は、ハスの品種名と思われているようですが、実はまだ品種名がついていない花のことで、昭和30年ごろまでは使われていませんでした。
ハスの研究に尽力していた大賀一郎氏が、戦前に中国・大連市近郊の店で発掘した、約1000年前の古いハスの実を開花させ、その花名をフランテン蓮、別名を中国古代蓮と呼んだのが、古代蓮という名前の始まりです。
古代蓮という名前が一般的に流通されたのは、埼玉県行田市で昭和48年、ゴミ焼却場を建築中に地中で眠っていたハスの実が自然発芽して咲いたのが発見されたためです。
ギョウダハス(行田蓮)
自然発芽して咲いたハスを、行田市では品種名をつけずに行田の古代蓮と呼んでいたのですが、古いハスだから単純に古代蓮と呼んだのでしょう。
その後、行田市ではこの古代蓮を天然記念物に指定するために、2001年に「古代蓮の里」としてハスの公園を造営しました。
その時に開園記念として、名前未詳のハスにふさわしい名前を募集して「行田蓮」に決定したのです。
行田蓮(古代蓮)は、約1400~3000年前の地層から発見されたハスの実が発芽し、花が咲いた原始的な形態をもつハスであるといわれています。
行田蓮(古代蓮)が見られる古代蓮の里については、下記記事をご参考ください。
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オオガハス(大賀蓮)
1951年、古代の丸木舟が発見された千葉市近郊の検見川で、植物学者の大賀一郎博士らが発掘調査をしていたところ、ハスの実が3個発見されました。
泥炭層から見つかったハスの実は、シカゴ大学で分析鑑定した結果、約2000年前(縄文時代)のものであることが判明しました。
大賀博士は、この3個のうち1個の発芽に成功し、翌年には見事なハスの花を開花させました。
2000年の眠りから目覚めた古代のハスは、国内外で大きなロマンと話題を呼びます。
当初はこれを「二千年蓮」と呼んでいましたが、後に大賀博士の名をとって「大賀蓮(大賀ハス)」と呼ばれるようになりました。
オオガハスは、千葉公園に移植され、その後愛好者らの手によって日本各地や海外にも株分けされていったのです。
オオガハスが見られる千葉や町田の観光スポットについては、下記記事をご参考ください。
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ハスとスイレンの違い
ハスと同じく、泥の中から形状まで似た花を咲かせるスイレン(睡蓮)ですが、両方とも親戚でも仲間でもなく、まったく異なる種類の植物です。
ここでは、ハスとスイレンの違いや見分け方を紹介します。
葉の形状・つき方
ハスは、水面から葉を立ち上がらせる傾向があります。
一方、スイレンは、葉が水面に浮かぶように張りついているため、通常では葉の裏側が見えることはありません。
ハスもスイレンも葉の形は丸みがありますが、ハスの葉には切れ込みがなく、スイレンの葉には切れ込みがあります。
花の位置
ハスは茎が丈夫なため、水面よりも高い位置に花を咲かせます。
スイレンは、水面に浮かぶように花を咲かせます。
開花時期
ハスとスイレンは開花する時期が異なります。
スイレンの花期は5月から10月までと比較的長いですが、ハスの花期は7月から8月までの夏にしか咲きません。
また、ハスの花は朝早くに咲き、昼には閉じてしまう特徴があります。
ハスの花言葉
ハスの花言葉は、「清らかな心」「休養」「神聖」「沈着」「離れゆく愛」です。
まさに極楽浄土に咲く花らしい「清らかな心」は、池の泥水を吸いながらも美しい花をつける特徴にちなんでいます。
また「休養」は、午前中に咲いた花が午後には閉じてしまう規則正しさから、「離れゆく愛」は、たった4日間の短い命で花びらが1枚ずつ落ちていく散り方からきています。
他に「雄弁」といった花言葉があり、エジプトの神・オシリスに捧げられた背景が由来です。
白色のハスは、その純白な色合いからも感じられる通り「純粋」や「清らかな心」という花言葉がつけられています。
終わりに
わずか4日間しかない短い命だけに、夏の陽射しに負けず力強く花開くハス。
泥の中にあっても清らかな花を咲かせるハスは、極楽浄土で咲いているとされ、仏教では神聖な花とされています。
どのような苦難があっても、心を汚れさせることなく美しく生きよう、という仏教の教えがあるためです。
ハスの観光スポットに出向いて、泥の中から美しく咲かせる姿を見ながらその生態や生き様を感じてみてはいかがでしょうか。
※使用カメラは、Cannon EOS 5D MarkⅡ、SONY α7Ⅱ
以下の記事では、関東エリアと京都の蓮スポットを紹介しています。
2000年の眠りから目覚めた大賀蓮、元は名もなき古代蓮はじめ、さまざまなハスを観賞できる観光ポイントですので併せてご参考ください。
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