滝がゆっくり流れ落ちるように垂れ咲く紫色の花、藤。
うねるようにねじれた太い蔓のたくましさと、長く垂れた花房の優雅さには、和服姿の優しい女性をイメージする方も多いでしょう。
今回は、ゴールデンウィーク前後にしかほぼ見られる機会のない藤の観光スポットを、関西・関東エリアに絞って紹介します。
また、藤をあまり知らない方のためにも、藤の生態や特徴などの基本情報も解説しますのでご参考になれば幸いです。
藤の生態・特徴
藤(フジ)は、4月下旬から5月上旬にかけて、長い穂のような花序を垂れ下げて咲くつる性の花木です。
観賞価値が高いため、多くの園芸品種があり、現在では世界各地で植えられています。
つるは右巻き(S巻き)で、花をつける茎を総称する花序は、枝の先端に出て下に垂れるように伸びて1メートルにもなり、多数の花をつけるのが特徴です。
本種は後述する牛島の藤で、明治時代には約3メートルの花序をつけることがあり、そこから生まれた栽培品種のノダナガフジ(九尺藤)も条件により花序が2メートルに達するとされています。
藤は繁殖力が強く、他の樹木に絡みながらつるを伸ばしていく様子から長寿や子孫繁栄に、また房状の花を稲穂に見立て豊作を願うなど、縁起のよいものとされていました。
この真っすぐと上に伸びていく藤のつるや穂状の花房が、長寿・子孫繁栄・家運繁盛の象徴といわれています。
また、香り高い藤の花は、幸運を引き寄せるという言い伝えがあり、人に害をあたえるものや悪霊などを取り除く効果があると信じられています。
そして、藤の花は古くから、振り袖姿のあでやかな女性に例えられるように、優雅で柔らかい印象を与える花です。
そんな降り注ぐような美をもつ女性を象徴とし、花言葉は「歓迎」「恋に酔う」「優しさ」「決して離れない」と表されています。
春日大社 萬葉植物園(奈良)
関西方面の藤を見るなら、奈良の春日大社内にある萬葉植物園でしょう。
万葉集にゆかりの深い春日野の地に、約300種もの萬葉植物を植え込む、日本で最も古い萬葉植物園で、1932年(昭和7年)に開園しました。
約3ヘクタール(9000坪)もの規模にまで拡張された園内は、萬葉園・五穀の里・椿園・藤の園で構成されています。
中でも春日大社の社紋・シンボルともなっている日本古来の花、藤を植栽する藤の園が有名です。
藤の園では、早咲きから遅咲きまでの20品種・約200本もの藤が、4月中旬から5月上旬にかけて順に開花し、目の高さで陽を浴びて咲き誇る立ち木造りと、通常に見られる棚造りにて公開されています。
こだわりとされる立ち木造形式というのは、一般的な棚造りではなく、藤棚のように見上げずに目線を同じ高さで花を観賞することができます。
花が外向きに咲くことで常に光を浴び美しく見え、まさに自然と一体化した風光優美な庭園になっています。
御本社の砂ずりの藤の見頃は、ゴールデンウィークです。
慶賀門を入ったところの棚造りの藤で、5月初旬頃には花房が1メートル以上にも延び、砂にすれるということからこの呼び名がついています。
ノダフジ(野田藤)の変種で、摂関近衛家からの献木と伝えられています。
また、春日権現験記にも書かれている古い藤であり、樹齢700年以上といわれています。
開花期間は、気候により多少前後しますが、例年4月末頃から5月上旬頃までです。
早咲きの開花から遅咲きが咲き終わるまでが約2週間で、すべての藤が一斉に咲き揃うことはありません。
藤の園で見られる藤は、山藤系・野田藤系・支那藤系に分かれ、早咲きには濃いピンク色の「昭和紅藤」や中国産の「麝香藤」など、珍しい藤が多く咲きます。
半ば頃から、長い房の藤はじめ、野田藤系の「八重黒龍藤」などが咲き始めます。
日本国内で藤の名所はたくさんありますが、春日大社にある萬葉植物園の200品種ある豊富な品種、森林の中を巡るような野生に近い藤の姿は見応え十分です。
春日大社 萬葉植物園へのアクセス
住所
奈良市春日野町160
交通アクセス
JR大和路線・近鉄奈良線「奈良」駅より徒歩35分
バス利用の場合は、JR大和路線「奈良」駅から奈良交通バス・春日大社本殿行(約15分)「春日大社本殿」下車すぐ、または奈良交通バス・市内循環外回り(約12分)「春日大社表参道」下車徒歩約10分
平等院鳳凰堂(京都)
京都府宇治市にある藤原氏ゆかりの平等院鳳凰堂でも、見事な藤棚を見ることができます。
例年ゴールデンウィークが近づくと、観音堂の横に設けられた藤棚いっぱいに約1万本の藤が咲き誇ります。
紫の優雅な花房は、長さが1メートル以上に及び、芳しい香りを漂わせる花越しには国宝の鳳凰堂が臨めます。
気候の影響を受けやすいため開花不良に終わる年もありますが、藤の花は上方から咲き始めていくため、見頃は長くて2週間ほど楽しめます。
藤棚自体の敷地は大きいですが、鳳凰堂と藤を重ねて見られる部分はほんの一画のみで人気の撮影スポットとなっています。
藤棚の周囲にはツツジも咲き、初夏らしい彩りが見られます。
平等院鳳凰堂へのアクセス
住所
京都府宇治市宇治蓮華116
交通アクセス
京阪電車宇治線「京阪宇治」駅より徒歩15分
JR奈良線「宇治」駅より徒歩15分
あしかがフラワーパーク(栃木)
あしかがフラワーパークは、樹齢約160年の大藤が有名で、栃木県天然記念物に指定されています。
他にも、80メートルに及ぶ白藤のトンネルや鮮やかな黄色が美しいきばな藤のトンネルなど、350本以上の藤が咲き誇ります。
また、昼間だけでなく、日本夜景遺産にも認定された夜のライトアップも幻想的で、ビジュアル空間の藤を楽しむなら、あしかがフラワーパークでしょう。
園内の藤は4月中旬から5月中旬の約1ヶ月間にわたって、うす紅、紫、白、黄色の花色順で観賞が楽しめます。
あしかがフラワーパークへのアクセス
住所
栃木県足利市迫間町607
交通アクセス
JR両毛線「あしかがフラワーパーク」駅より徒歩3分
亀戸天神社(東京)
東京都内で藤を見るなら、亀戸天神でしょう。
境内に植えられている約15棚100株以上の藤が咲き誇ります。
風に揺れる藤の花と朱色の太鼓橋はシンボル的な景色で、橋の傍から東京スカイツリーも見えます。
日没後はライトアップも行われ、かすかな波に揺れて池の水面に写る花房が醸し出す幽玄の世界も、粋な光景として親しまれています。
亀戸天神社へのアクセス
住所
東京都江東区亀戸3-6-1
交通アクセス
総武線「亀戸」駅北口より徒歩15分
総武線・メトロ半蔵門線「錦糸町」駅北口より徒歩15分
牛島の藤(埼玉)
牛島の藤は、敷地内にある藤花園で樹齢1200年以上ともいわれる藤の古木が公開されており、国の特別天然記念物に指定されています。
藤の栽培品種であるノダナガフジの原木であり、その総状花序の長さから栽培品種として九尺藤とも呼ばれているそうです。
花房の長さは最高で2メートルにもなり、面積が700平方メートルある藤棚が3ヶ所あります。
庭園の敷地は2ヘクタールで、大小色違いの藤、中島のほか、500余年の老松も植えられており、池の周りにはアヤメやツツジが咲きます。
見頃は例年4月中旬から5月上旬で、藤の花が咲く時期のわずか3週間しか開園されないため、公式サイトなどで事前に開花情報などを確認してください。
年々開花が早まっているようで、筆者が直近で2回目に訪れたのは4月28日でしたが、すでに見頃を過ぎていました。
そのため、色褪せた藤で見苦しいですが、付近には鮮やかな色をした大きなツツジやオダマキも咲いていました。
1回目に初めて訪れた時は、美しい藤紫の妖艶な雰囲気が漂い、しばし見惚れていたほど圧巻だったため、写真が見つかり次第更新します。
牛島の藤(藤花園)へのアクセス
住所
埼玉県春日部市牛島786
交通アクセス
東武野田線「藤の牛島」駅より徒歩10分
終わりに
たおやかに垂れる藤の花姿は、振袖姿のあでやかな女性を彷彿とさせます。
日本では古くから、藤を女性に、松を男性に例え、これらを近くに植える習慣があったそうです。
藤は、他の樹木に絡みながらつるを伸ばしていき、房状の花を穂のように咲かせることから、長寿や子孫繁栄、豊作など縁起のよい花とされています。
ゴールデンウィーク前後にしか見られないこの機会に、藤の降り注ぐような妖艶な美に酔いしれてみてはいかがでしょうか。
※使用カメラは、Cannon EOS 5D MarkⅡ、OLYMPUS PENなど
以下の記事では、春に咲く花・植物を観光スポット付きで紹介しています。
主役というほどではないけれど、なぜか目を惹く珍しい花の生態や特徴も解説していますので、併せてお読みください。
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