夏の花といえば、梅雨シーズンに映える紫陽花や真夏に咲く蓮。
初夏や梅雨、盛夏と移り変わりが激しい夏の季節は、同時に咲く花が少ないものの、1つ1つの品種がバリエーション豊富です。
今回は、新緑やアジサイが注目される中、可憐に彩りを見せてくれる夏の花・植物、それぞれの生態や特徴を解説します。
また、その花や植物を実際に観ることのできるスポットも紹介しますので、遠出や観光ついでの寄り道としてご参考になれば幸いです。
ハナショウブ(6~7月)
ハナショウブ(花菖蒲)は、アヤメ科の多年草で水辺に生え、6月ごろに花を咲かせます。
花色は紫や青を中心に、白や桃、黄などもあり、江戸時代を中心に数多くの品種が育成されてきたことにより、現在では2000種ほどあるといわれています。
系統は大きく分けると、品種が豊富な江戸系、室内での鑑賞向きとされる伊勢系と肥後系、原種の特徴を強く残す長井系(長井古種)の4系統に分類されますが、他にもアメリカなどで育種が進んでいる外国系もあります。
菖蒲という字は、「ショウブ」と「アヤメ」のどちらが正しい呼び名なのか、実は漢字ではどちらも同じ「菖蒲」になります。
アヤメという花名の由来は、花びらに網目の模様があったことから、文目(あやめ)と呼ばれるようになったという説が濃厚です。
一方、ショウブはその昔、飛鳥・奈良時代には、あやめぐさと呼ばれていた歴史があります。
理由は諸説ありますが、ショウブを使った邪気払いの儀式をしていた女性を、アヤメと呼んでいたことからきているといわれています。
そして、ハナショウブがアヤメやカキツバタに似ていて、見分け方の難しいという方も多いでしょう。
ハナショウブは花びらのつけ根が黄色で、カキツバタはつけ根が白であり、アヤメは網目状の模様があることで区別できます。
また、ハナショウブの葉幅は狭く、葉脈がはっきりと突出している点も見分け方です。
堀切菖蒲園
葛飾区が所管する堀切菖蒲園は、約7700平方メートルの広大な園内で、約200種6000株ものハナショウブが植栽されています。
ハナショウブの見頃は、毎年6月上旬から中旬ごろで、「十二単衣」「酔美人」「霓裳羽衣」など、希少な品種も見られるとあって愛好家にも人気の高い菖蒲園です。
江戸時代、堀切の地に観光名所として花菖蒲園が誕生して以来、周辺地域にいくつかの花菖蒲園が栄えました。
歌川広重や歌川豊国らの錦絵の題材などにも登場し、現在の堀切菖蒲園は、戦後唯一復興を果たした、堀切園の一部が母体となっています。
園内にはハナショウブ以外にも、ウメやフジ、ボタンなどいつ訪れても四季折々の花と緑が見られる日本庭園を楽しみながら、喫茶や会食ができる静観亭があります。
堀切菖蒲園
住所:東京都葛飾区堀切2-19-1
交通アクセス:京成電鉄「堀切菖蒲園」駅より徒歩約10分
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県立相模原公園
県立相模原公園は、面積が約26ヘクタールある広大な総合公園です。
園内にある水無月園では、面積2300平方メートルの中で約120品種・約2万株のハナショウブが植えられており、相模の風景に合うしっとりとした空間になっています。
ハナショウブの系統として江戸系、肥後系、伊勢系とわかりやすく札が立ててあり、菖蒲田、池、散策路、雑木林、芝生地、観察デッキなどがあり、見頃の時期には「しょうぶまつり」が開催され多くの人たちで賑わいます。
相模原公園には、隣接している相模原麻溝公園があり、同じ時期にアジサイが見頃を迎えていますので、訪れた際はついでに足を運んでみてください。
県立相模原公園
住所:神奈川県相模原市南区下溝3277
交通アクセス:
JR原当麻駅から徒歩約20分
小田急線「相模大野」駅より神奈川中央交通バス(神奈中バス)で「女子美術大学」終点下車徒歩1分
小田急「相模大野」駅北口より大15系統2番・原当麻駅・古山経由上溝行(約20分)「相模原公園前」下車
JR相模線「原当麻駅」大15系統・北里経由小田急相模大野駅行(約5分)「相模原公園」前下車
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ユリ(5~8月)
ユリ(百合)は、5月から8月にかけて、白や黄、ピンクなど香りの強い大きな花を咲かせます。
花名は、茎が細く花が大きく風が吹くと揺れるところから「揺すり」といわれ、それが変化して、百合(ユリ)と呼ばれるようになったとされています。
ユリは、ヤマユリやテッポウユリ、カノコユリ、スカシユリの亜属(系統)に分けられ、北半球の温帯に約130種が自生し、うち日本には15種分布しています。
ヤマユリ亜属は、花が横向きに大きく咲き、花びらが反り返っているのが特徴です。
テッポウユリ亜属は、花の形が筒状で横向きに咲く花が多く、日本では沖縄や屋久島に多く分布しています。
カノコユリ亜属は、花が下向きか斜め下向きに咲くのが特徴で、花びらが大きくカールし球状になっている形状が多いです。
スカシユリ亜属は、花が上向きに咲き、花びらの下の方が細く花の中が透けて見えることから名づけられ、世界中に広く分布しています。
ところざわのゆり園
ところざわのゆり園は、埼玉県所沢市にある西武鉄道株式会社が運営するレジャー施設で、毎年6月上旬から7月中旬のみ開園しています。
狭山丘陵の地形をそのまま生かしたユリ園で、約3万平方メートルの自然林に50種・約45万株のユリが咲き誇ります。
園内は、自然散策コース(約1000メートル)と、らくらく観賞コース(約150メートル)に分かれており、森林浴と散策を楽しみながら、早咲きのスカシユリ種や遅咲きのハイブリッド種など、カラフルな色と優雅な香りに満ちた空間を味わえます。
残念ながら2023年は開園中止とのことで、翌年の開園を楽しみにしたいですね。
ところざわのゆり園
住所:埼玉県所沢市上山口2227
交通アクセス:西武池袋線「西所沢駅」より西武狭山線「西武球場前駅」下車徒歩3分
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ヒマワリ(7~8月中旬)
ヒマワリ(向日葵)はキク科の一年草で、原産地は北アメリカです。
1茎に1花が咲き、草丈は2~3メートルに達する姿が最も一般的ですが、近年では品種改良が進み、背丈がやや低めの品種もあり、黄色のイメージが強い花びらもオレンジ、赤、白、複色まであります。
ヒマワリは、4~6月ごろに種をまくと1週間ほどで発芽し、茎葉を広げて旺盛に生育しながら7~9月に花咲きます。
花が終わると、種実を食用や油糧とすることが多く、1センチほどのタネが1輪から500個以上も採取できます。
ヒマワリは漢字で「向日葵」と書き、太陽の方向に向かって咲く花という意味です。
太陽がきらめくような花姿や、光や天に向かって顔を上げて咲く姿などをイメージして名づけられ、英名では「サンフラワー」と呼ばれています。
座間ひまわり畑
座間ひまわり畑は、座間市の座間会場と栗原会場の2ヶ所に分かれており、総面積5.5ヘクタールを超える規模で、約55万本のヒマワリが咲き誇ります。
座間市の2ヶ所あるひまわり畑で、一番広いのが座間会場です。
約4.5ヘクタールほどの土地に、計45万本ものヒマワリが植えられており、どこを見ても一面ヒマワリで埋め尽くされ、まるで絵画の中に入り込んだような黄色の世界です。
ひまわり畑は外から眺めるだけでなく、畑の中に入ることもできますので、中に入ってヒマワリを近くで観てみてください。
もう1つある栗原会場は、座間会場よりも範囲がやや小さいですが、1ヘクタールに10万本のヒマワリが植えられており、群生した姿を見ることができます。
例年、座間会場は8月中旬~8月下旬、栗原会場は7月中旬~8月初旬が見ごろです。
その年の気候などによってヒマワリ観賞の可否も変わりますので、開花状況をWebサイトなどでチェックしましょう。
なお、座間会場と栗原会場は距離が5キロほど離れていますので、歩いてはしごされる場合は熱中症や車にお気をつけください。
座間ひまわり畑
(座間会場)
住所:神奈川県座間市座間1449-1付近
交通アクセス:
小田急線「座間」駅または「相武台前」駅より座間四ツ谷行きバス「神社前」下車徒歩10分
JR相模線「相武台下」駅より徒歩15分
JR相模線「入谷」駅より徒歩20分
(栗原会場)
住所:神奈川県座間市栗原2487
交通アクセス:
小田急線「相武台前駅」よりバス南林間行き「座間総合高校前」下車徒歩約1分
小田急線「南林間駅」よりバス相武台前駅行き「座間総合高校前」下車徒歩約1分
小田急線「相武台前駅」より徒歩約30分
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ホテイアオイ(8月中旬~9月下旬)
ホテイアオイ(布袋葵)は、ミズアオイ科に属する水草で、夏から秋にかけて暑かった夏の終わりを告げるように、涼しげな薄紫色の花を咲かせます。
別名「ホテイソウ」「ウォーターヒヤシンス」と呼ばれており、17世紀にブラジルで発見されましたが、19世紀から20世紀にかけて世界各地に広まりました。
湖沼や河川で水面に浮かんで生育し、花が青く美しいため、観賞用に栽培されますが、繫殖力が高く爆発的に増えて川や池沼を覆い、船の行き来やダムによる水力発電を妨げるなどの害を受けることがあるため、今では害草のひとつ「青い悪魔」として恐れられています。
日本には、1882年にアメリカから持ち帰ってきた株が、ホテイアオイ栽培の始まりとされています。
ホテイアオイは全体的に光沢があり、葉の付け根部分(葉柄)がぷっくりと丸く膨らむのが一番の特徴です。
葉柄の内部はスポンジ状になって空気をたくさん含み、浮き袋の役割となって株が水に浮きます。
この付け根の袋が七福神の「布袋さん」のおなかに似ていることから、ホテイアオイ(布袋葵)という名前がつけられました。
メダカと相性がいいことで知られ、金魚鉢に浮かべる水草を見たことがある方は、このホテイアオイの葉を使われることが多いでしょう。
例年8月中旬から9月下旬ごろが見ごろで、太い花茎が10センチほど伸び、紫がかった淡いブルーの花をたくさん咲かせます。
花びらは6枚で、上の花びらは中央が濃い青紫になり、さらにその中に黄色やオレンジのスポットが入って目立ち、まるで孔雀の羽のようです。
本薬師寺跡
本薬師寺は、もともとは奈良県橿原市にある藤原京の薬師寺(やくしじ)と呼ばれた寺院で、西ノ京にある現在の薬師寺の前身です。
天武天皇が、後の持統天皇である皇后の病気平癒を祈願して、680年(天武9年)に薬師如来を本尊とする寺の建立に着手しました。
しかし、寺が完成しないうちに天武天皇が崩御し、持統天皇がその遺志を継いで698年に完成させました。
その後、平城京遷都により薬師寺が西ノ京に移ったため、西ノ京の「薬師寺」と区別するために「本薬師寺」と呼ばれるようになりました。
現在は、東塔や西塔の土壇および心礎などの礎石が周囲の水田に残存しており、本薬師寺跡として特別史跡に指定されています。
ホテイアオイの群生地は全国的にも珍しく、関西ではこの本薬師寺跡以外であまり見ることができません。
本薬師寺跡では、40万本ものホテイアオイが休耕田(水田の跡地)を埋め尽くし咲き誇ります。
青空に薄紫の絨毯を敷いたようなホテイアオイの群生を見ていると、繁殖力のある害草とは思えないほど清々しく爽やかな世界が広がります。
周囲を見渡すと、遠くに見えるのは大和三山の畝傍山と金剛・葛城の山々です。
本薬師寺跡からさらに足を延ばすと藤原宮跡にもいけますので、見頃のタイミングが合えばコスモスも見られます。
本薬師寺跡
住所:奈良県橿原市城殿町279
交通アクセス:近鉄「畝傍御陵前(うねびごりょうまえ)」駅より東方向へ徒歩約10分
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終わりに
梅雨だけでなく台風災害も多い時期に、太陽の熱さに負けず咲く夏の花。
年々暑くなっていくたびに出かけるのも躊躇われる季節ですが、力強く咲き続ける花や植物を目にし、パワーをもらってみてはいかがでしょうか。
また、ハナショウブはアジサイとほぼ同時期に見頃を迎えますので、ついでに寄るのもいいでしょうし、ブルー系の涼しげな花だけでなく、ユリやヒマワリといった元気になれるビタミンな花も夏ならこそ。
電気代もかさむこの頃、野外で自然に触れながら暑い夏を乗り越えましょう。
この記事で紹介している観光スポットは、筆者が実際に訪れた場所として関東や関西が主になっていますので、遠方の場合はお近くの公園や庭園、植物園のWebサイトなどで開花情報をチェックしてみてください。
※使用カメラは、Cannon EOS 5D MarkⅡ、SONY α7Ⅱ
以下の記事では、春夏秋冬の四季別に咲く花・植物を観光スポット付きで紹介しています。
季節ごとの主役というほどではないけれど、なぜか目を惹く珍しい花の生態や特徴も解説していますので、併せてお読みください。
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